東京高等裁判所 昭和39年(ネ)1956号 判決
控訴代理人は、東京地方裁判所が同庁昭和三七年(ワ)第一、四一六号賃料等受領権存在確認等請求事件について昭和三九年七月二三日に言渡した判決を不服として本件控訴を提起したが、右判決の控訴代理人に対する送達の日が昭和三九年七月三一日であり、本件控訴状受付の日が同年八月一七日であることは記録上明らかであるから、本件控訴は法定の控訴期間経過後に提起された不適法のものといわざるを得ない。
尤も控訴代理人は右の点につき当裁判所に書面(編者において省略)を提出し、次のとおり主張する。
当裁判所は控訴代理人の右主張を採用し難いものと判断したが、以下その理由を説示する。
一、記録添付の送達報告書、本件控訴状前文の記載ならびに控訴代理人が提出した川田章二作成の証明書および供述書、井原英子作成の証明書によると、原判決正本が昭和三九年七月三一日執行吏代理によつて控訴代理人弁護士Sの事務所に送達され、同弁護士に雇われている書生川田章二が送達報告書の受領者欄に同弁護士の記名押印をしてこれを受領し、右事務所の存する同一建物内にある長良鉄鋼産業株式会社の従業員井原英子にその取次方を託して帰郷したところ、控訴人代理人がその主張する経緯の下に同年八月三日同女より右正本の交付を受けた事実を窺うに足りる。それ故右川田章二に対する原判決正本の交付は民事訴訟法第一七一条第一項に規定するいわゆる補充送達であつて、右判決正本の受領にあたり川田章二が送達報告書に書生若しくは事務員として自己の署名捺印をすべきであるのに直接S弁護士の記名押印をし、執行吏代理もこれを看過して訂正せしめなかつたのは相当でないけれども、ただそれだけで右送達が不適法となり補充送達としての効力なきに至るものとはいいえない。従つて控訴期間は当然右送達の日である同年七月三一日より進行すべく、これと異る見解に立つ控訴代理人の主張は採用できない。
二、また右の事実関係からすると、本件控訴状が法定の控訴期間内に提出されえなかつたのは控訴代理人の書生川田章二が前記七月三一日に原判決正本を受領しながら、右の日に送達されたという事実を送達名宛人である控訴代理人に確知せしめる適当な連絡処置をとらずに帰郷し、さらに同人が郷里から戻つた八月六日(同人の証明書によると同人は八月六日から出勤していた)以後にもこのことを絶えて控訴代理人に告げなかつたため控訴代理人において送達のあつた日を自己が右正本を入手した八月三日であると誤解したのによることが明らかである。従つてこのような事由に基く、本件控訴期間の徒過は民事訴訟法第一五九条にいわる「当事者が其の責に帰すべからざる事由により不変期間を遵守すること能わざりし場合」にあたらないと解すべきであり(大審院昭和七年(オ)第二四七九号・昭和九年五月一二日判決の趣旨参照)、それ故本件控訴申立の追完は許されない。
(奥野 野本 海老塚)